「開ける時は空気を吸わせるのに、保存する時は空気を抜くの?」という素朴な疑問。
ワインを開けたあと、抜いたコルクを指先で転がしながら、じっと眺めるのが好きです。

そこには、生産者の名前やドメーヌの紋章、ヴィンテージ(収穫年)が焼印で刻まれています。最近では高価格帯のワインでも手入れが簡単でブショネ(コルク臭)の心配もないスクリューキャップや合成コルクを採用するものが増えてきました。これもある意味、機能的で素晴らしい進化だと思います。
けれど、このコルクを抜くときの「ポン」という心地よい音と、側面に刻まれた焼き文字を見る瞬間には、何物にも代えがたいロマンがあります。その木肌に染み込んだ葡萄の香りを嗅ぐと、「ああ、長い旅を経て我が家の食卓にやってきてくれたのだな」と、静かな愛おしさが込み上げてくるのです。
そんなコルクに再び栓をしてワインを保存しようとするとき、ふと頭をよぎる素朴な疑問があります。
「開けたてのときはデキャンタやエアレータを使って必死に空気に触れさせたのに、飲み残したワインは『エアキャップ(真空ポンプ)』で空気を抜いて保存する。これって矛盾していないだろうか?」
実際、お客様や知人からも時折投げかけられる質問です。空気を吸わせたいのか、追い出したいのか、どっちなんだと。
種明かしをすれば、これは「ワインと空気のつきあい方の段階」の違いに過ぎません。
開けたてのワインに空気を送る(エアレーション)のは、いわば「眠っている花を一気に開かせる(ポテンシャルの開花)」ための作業です。酸素と触れ合うことで、トゲトゲした渋みが丸くなり、秘められていた香りが一気に立ち上ります。

一方で、残ったワインから空気を抜くのは、「一度ひらいた花をこれ以上枯らせない(劣化・酸化の防止)」ための作業です。必要以上に酸素と接し続けると、ワインは「美味しく開いた状態」を通り越し、急速に酸化して酸っぱく傷んでしまいます。

つまり、「一瞬だけ空気に触れさせて美味しいピークに持ち上げ、残ったら空気から遠ざけてそのピークを保存する」。まったく矛盾しておらず、どちらもワインを最後まで愛でるための理にかなった行為なのです。
もちろん、無理に本格的な真空ポンプを用意しなくても、抜いたコルクを上下逆さまにしてギュッと挿し直し、立てて冷蔵庫に入れておくだけでも数日は十分に美味しく楽しめます。
お気に入りの焼印が押されたコルクで再び瓶に蓋をし、静かに冷蔵庫のドアを閉めます。
今夜も少しだけ残ったボトルを前に、また明日の夜、少しだけ表情を変えたこのワインに出会えることを楽しみにしながらグラスを洗うのです。
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